企業年金の行方

 

 

急速な高齢化に伴い細る公的年金を補完する仕組みとして企業年金への期待が高まり、社会保障審議会でも拡充策が議論されています。

 

 

 

この背景には公的年金の支給水準低下があります。6月公表の財政検証によると、楽観シナリオでも所得代替率(現役世代の所得に対する給付水準)は現在の60%から50%へと2040年代までに約2割低下します。そこで第二の年金として企業年金の役割が期待されています。

 

 

 

■企業年金の第1の課題・・・「普及率の向上」

 

企業年金を設けているのは全企業の40%を切っています。加入者数約1300万人は公的年金の加入者約7000万人の約2割。しかも普及率は過去10年で大きく低下しました。特に、企業年金基金の解散後、新たな企業年金制度を設けていないケースが多いようです。

 

低下の最大の要因は適格退職年金制度が2012年に廃止されたこと。事業主の大半は中小企業であり、それまで1000万人超の加入者がいました。今後5年のうちに約500の基金(加入者数約400万人)が、ほかの年金制度に移らないまま、解散せざるを得ないと懸念されているそうです。

 

 

 

2001年には新たに確定給付企業年金と企業型確定拠出年金の2つが法制化。しかし、中小企業向けと期待されていた確定拠出年金(以下DC)があまり普及していません。DCでは、加入者が自己責任により商品を選択し、投資成果によって年金受給額が増減する。加入者が円滑に商品を選べるよう事業主は制度の仕組みや商品ラインナップ、投資の基本知識などの情報を継続的に提供する義務を負います。

 

しかし資産取り崩しまで数十年あり、短期的収益を気にする必要のない若年層を含め、依然として60%近いの加入者が利回りの低い預金などを選択しています。

 

 

 

これは日本に限ったことではないようです。実はDCの先進国である英米でも加入者の投資行動は活発ではないようです。日本のモデルとなった米国の401kプランでは、投資先が市場動向に左右されやすいほか、価格の変動で資産配分の割合が当初設定からずれても放置してしまうなどの問題が指摘されています。401k加入者は確定給付よりも高い投資リスクをとりながら、収益率は年率で1ポイント以上低い水準にとどまっているのが実態

 

 

 

対策として、行動ファイナンス分野の研究が進んだ結果、デフォルト(初期設定)商品の工夫がなされています。デフォルト商品とは加入者が自分で運用商品を選択できない場合に自動的に決まる商品を指す。かつてはマネー・マーケット・ファンド(MMF)など低リスク商品がその中心でしたが、近年では加入者の引退まで主要な資産に分散投資する低手数料の商品(ターゲット・イヤー・ファンド)が導入されています

 

英米の事業主はこのほか、個別相談で専門家から個人的な助言を受けられるようしたり、商品の数を加入者が理解できる程度に抑えたりといった工夫をしている。(導入時に商品が多すぎて混乱するケースが多いのも事実。)

 

 

 

 

 

一方、確定給付型企業年金では運用成績が悪化すると事業主の掛け金が増え経営を圧迫する仕組みになっています。低金利や株価低迷による運用難のもとで、キャシュバランスプラン(通称CB)といった運用実績や市場金利の変動を給付にも反映させ、事業主だけでなく加入者も運用リスクを分担する仕組みが導入されています。

 

 

 

 

  ■企業年金の第2の課題・・・「一時金の年金化」

 

 

日本の企業年金制度の多くは欧米と異なり、退職一時金の支払原資を社外に積み立てる目的として設立されてきました。こうした経緯もあり、退職金の受給方法が「一時金と年金」の場合、実際には多くの加入者が一時金を受け取っています。この一時金の選択割合は、実際は企業によって大きく異なります。これはひとえに十分な説明と個別のライフプランを立てさせるような教育が事前に行われているか否かによるところが大きい

 

 

 

老後設計という視点から考えると、「老後の所得保障」としては、自由に使われてしまう一時金ではなく、定期的な年金の受給が望ましいと思います。現在でも中小企業の80%近くには一時金制度があります。しかも、退職所得控除など、一時金受給は年金よりも相当に有利な税制になっていることも一因です。しかし中期的には年金形態での受給を促すため、退職所得控除を含めた税制を一体として見直すべき時期にきています。

 

 

 

今後は「DCの普及」のために、引退以前であっても、傷病・失業といった不慮のケースや住宅の購入・子供の進学時などの場合には、確定拠出制度からの一時金の引き出し、あるいは制度からの借り入れを認めるのも一案でしょう。

 

今後の年金制度の設計にあたっては、公的年金、企業年金そして個人年金をトータルに、つまり年金給付を一体として捉えていく必要があると思われます。

 

Life Management Lab. All Rights Reserved.